Happy garden.【短編】

正直、おせちなんて見たくない。


当分は作ろうなんて思わないだろうし、こんな嫌な思い出のこもった重箱もいらない。



わたし達のあいだを、びゅっと冷たい風が吹き抜ける。


手袋をしていない手から体が冷える。



早く家に帰りたくなって、受け取ってもらえない包みを男の胸に押しつけた。


「入れ物ごと持って帰ってくれて構わないから!」


それでも、男は受け取らない。


欲しいって言っておいて、一体、何なの?


いぶかしげに顔をあげて男を見ると、白い歯を見せて笑っていた。


「そんな冷たいこと言うな。一人で食べるんは寂しいし、付き合ってくれや。それがここにあるってことは、あんたもまだおせち食べてないんやろ」


図星だった。


今年は一人寂しく食べなくていいんだと思ってたんだもん。


健吾と食べるのを楽しみにしてたから、家でも食べてきてない。


せいぜい、作ってるときに少し、味見でつまんだくらい。

< 8 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop