Happy garden.【短編】
正直、おせちなんて見たくない。
当分は作ろうなんて思わないだろうし、こんな嫌な思い出のこもった重箱もいらない。
わたし達のあいだを、びゅっと冷たい風が吹き抜ける。
手袋をしていない手から体が冷える。
早く家に帰りたくなって、受け取ってもらえない包みを男の胸に押しつけた。
「入れ物ごと持って帰ってくれて構わないから!」
それでも、男は受け取らない。
欲しいって言っておいて、一体、何なの?
いぶかしげに顔をあげて男を見ると、白い歯を見せて笑っていた。
「そんな冷たいこと言うな。一人で食べるんは寂しいし、付き合ってくれや。それがここにあるってことは、あんたもまだおせち食べてないんやろ」
図星だった。
今年は一人寂しく食べなくていいんだと思ってたんだもん。
健吾と食べるのを楽しみにしてたから、家でも食べてきてない。
せいぜい、作ってるときに少し、味見でつまんだくらい。