【長編】Sweet Dentist
【第6章】10月31日(月曜日)
先日のドタバタで千茉莉の治療が出来なかった為、あと一回彼女は治療のためにここへ来る。

明日…いつもの時間に彼女がきたら、先日のことを謝らなくてはいけない。

『気にしないで。』と千茉莉は言っていたけれど気にせずにはいられない。

頬の腫れは引いたのだろうか。どこか他に怪我をしてはいなかっただろうか。

あの日最後の患者を診た後に、千茉莉の様子を見に行くと彼女は診療台の上で俺の白衣を握り締めて自分を抱きしめるようにして眠っていた。

目じりに残る涙が痛々しくて、抱きしめたい衝動を抑えるのが大変だった。


何故だろう。千茉莉を愛しいと思うのは…。


俺を庇うように真由美の前に立ち、凛とした声で言った千茉莉の言葉が忘れられない。


『あなたは気付いていない。先生を好きだって言っておきながら先生の心が冷たく固まっていく事に気付いていない。』

千茉莉の言葉に真由美はショックを受けていたようだったが一番衝撃を受けていたのは俺だった。

千茉莉は俺の心の奥底の闇を感じたんだろう。

誰にも話した事の無い心の奥深く閉じ込めた深い愛情と憎しみを…。

そういえば杏ちゃんが言っていたっけ。千茉莉は人の心に敏感だって。


…やっぱり


千茉莉の背中の羽は錯覚なんかじゃなく本当にあるのかもしれない。



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