囚われのアゲハ蝶
プロローグ
「揚羽、お茶」

用件だけを述べたそのぶっきらぼうな声は届かなくてもいいのに

痛い程私の耳に突き刺さる。

「そのくらいご自分でご用意出来ませんか？」

少し怒りの混じった声で私は言葉を返す。

きっとこの男には何を言っても無駄に違いない、

だが、このまま素直に奴の言葉に従うのも釈だった。

「お前は俺のメイドだろ？主人に尽くすのが仕事じゃないのか？」

やはりいつもように嫌味の混じった声が返ってきた。

何が俺のメイドよ！

どうせ私は貴方の足でしょ！手でしょ！奴隷でしょ！

そう心の中で叫んでいても表にはその言葉を口にしない。

どうせこのまま奴と口でやり合っていても私に勝ち目はないと分かっているから。

もし奴の口の悪さに勝てる人がこの世にいるのであれば

ぜひ一度、私の前で奴を負かせてみてほしいものだ。

ともかく私では奴の口の悪さには勝てないので結局大人しく指示に従いお茶を入れた。

「…どうぞ」

本当はこのお茶を手渡しする時、

この入れたての熱いお茶を奴にぶっかけてやろうかと思ったが何とか理性を保ち、

無事奴に手渡しする事が出来た。

もうこの屋敷に勤めて三週間も経ったというのに未だにこの男の扱いには慣れていない。

意地悪で、嫌な奴で、口が悪くて史上最強最低最悪のこの男の扱いにだけは………

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表紙・目次

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