囚われのアゲハ蝶
「おそ…ッ!」
おそらく「遅いぞ」と言おうとした李音様の口が止まった。
「何だ…お前、その髪?」
「えっ?あッ!!」
急いで走ってきたので髪形のことなどすっかり忘れていた。
私はあのボサボサの酷い頭のまま李音様の部屋へと駆け
込んでしまっていた。
「お前、もう少しこの俺に仕えるんだから身だしなみぐ
らい整えろよ!」
呆れたように怒鳴る李音。
そしてその言葉にしゅんっと小さくなる。
確かに李音様の言うとおりだった。
今の私の髪型はお世辞にも可愛い…とは言えないほど酷いものだった。
「ッ……!」
また泣きそうになるのを必死で堪えた。
けどダメだった、どうしても押さえ切れなくて涙が溢れ出た。
昨日の嫌な気持ちがどこからか溢れ出てくる。
私昨日から泣いてばかりだと。
「とにかく、そのみっともない髪なんとか…」
泣いていることに気が付くとぎょっとした顔になる李音様。
でも溢れ出るものをどうしても止められなくて私は謝ることしかできなかった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
左手で涙を拭う。
おかしいな。
私こんなに泣き虫なんかじゃなかったのに…。
「お、おいっ、泣くことねぇだろ!」
「…ごめんなさい、ごめんなさ―」
謝ることしかできない私の目に困った顔をした李音様が映ったけどそれもまた溢れ出る涙ですぐに見えなくなった。
お互いどうしていいかわからずに、しばらくは沈黙が続いていた。
けれどそんな息苦しい沈黙を破ったのは李音様の方だった。
「だぁっ!!もういい加減泣き止め、ちょっと来い!」
「ぇっ…ちょっ!」
グイッと強く手を引っ張られそのまま歩き出すと李音様が着ていた上着を乱暴に投げつけられた。
きょとんっとした顔で見上げると少し顔を赤らめた李音様がぶっきらぼうに言葉を紡いた。
「それ頭に被っとけ、外出るんだからみっともない髪で歩くよりましだろッ」
これが今の彼の精一杯の優しさだと分かった。
広いお屋敷の外に出ると見るからに高そうな赤色の外車が一台停めてあった。
「乗れっ!」
李音は助手席のドアを開け、無理矢理揚羽を座らせるとそのまま運転席に乗り込んだ。
「李音様、どこへ…」
「いいから黙ってろ」
車のエンジンを付け走り出した。
またしばらく沈黙が続いた。
おそらく「遅いぞ」と言おうとした李音様の口が止まった。
「何だ…お前、その髪?」
「えっ?あッ!!」
急いで走ってきたので髪形のことなどすっかり忘れていた。
私はあのボサボサの酷い頭のまま李音様の部屋へと駆け
込んでしまっていた。
「お前、もう少しこの俺に仕えるんだから身だしなみぐ
らい整えろよ!」
呆れたように怒鳴る李音。
そしてその言葉にしゅんっと小さくなる。
確かに李音様の言うとおりだった。
今の私の髪型はお世辞にも可愛い…とは言えないほど酷いものだった。
「ッ……!」
また泣きそうになるのを必死で堪えた。
けどダメだった、どうしても押さえ切れなくて涙が溢れ出た。
昨日の嫌な気持ちがどこからか溢れ出てくる。
私昨日から泣いてばかりだと。
「とにかく、そのみっともない髪なんとか…」
泣いていることに気が付くとぎょっとした顔になる李音様。
でも溢れ出るものをどうしても止められなくて私は謝ることしかできなかった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
左手で涙を拭う。
おかしいな。
私こんなに泣き虫なんかじゃなかったのに…。
「お、おいっ、泣くことねぇだろ!」
「…ごめんなさい、ごめんなさ―」
謝ることしかできない私の目に困った顔をした李音様が映ったけどそれもまた溢れ出る涙ですぐに見えなくなった。
お互いどうしていいかわからずに、しばらくは沈黙が続いていた。
けれどそんな息苦しい沈黙を破ったのは李音様の方だった。
「だぁっ!!もういい加減泣き止め、ちょっと来い!」
「ぇっ…ちょっ!」
グイッと強く手を引っ張られそのまま歩き出すと李音様が着ていた上着を乱暴に投げつけられた。
きょとんっとした顔で見上げると少し顔を赤らめた李音様がぶっきらぼうに言葉を紡いた。
「それ頭に被っとけ、外出るんだからみっともない髪で歩くよりましだろッ」
これが今の彼の精一杯の優しさだと分かった。
広いお屋敷の外に出ると見るからに高そうな赤色の外車が一台停めてあった。
「乗れっ!」
李音は助手席のドアを開け、無理矢理揚羽を座らせるとそのまま運転席に乗り込んだ。
「李音様、どこへ…」
「いいから黙ってろ」
車のエンジンを付け走り出した。
またしばらく沈黙が続いた。