ファミリーコンプレックス

テスト用紙の裏に気紛れで描いたイラストのことでした。

「この川西さんっていうのと、鈴木さんっていうのは、同じクラスのあの子達のこと?」
「……」

確かにクラスの子の名前をテスト用紙の裏のキャラに"借りて"付けていました。テスト前に少しだけお話をしたから、キャラに名前を付けようとした時、顔が浮かんだだけで…。

「じゃぁ、川西さんと鈴木さんにこういう事言われたの?」
「……ちがいます」
「じゃぁ、何でこんなこと描いたの?」

まだ「オチ」を描いてないから、先生は誤解していました。そのテスト用紙だけを見れば、キャラたちが

「やぁーぃ、戸上さん。早く下りてこいよ!」
「何やってんだよ~」

と、川西さんと鈴木さんは上を向いて、下から"戸上らしいもの"に声を掛けています。一見したら、ちょっかいを出されているように見えるかもしれません。
テストの残り時間だけでは、最後のオチまで描き切れませんでした。
実は"上"に位置するキャラ(戸上?)は、人物ではありません。
"イラスト"…"壁に掛けられた絵画作品"なのです。"戸上だと勘違いされた作品"を見上げながら、"下"に位置する川西さんと鈴木さん2人は、勘違いをして声を掛けているところです。
そして描けなかった部分は
「あれ?動かないね」
「戸上さんじゃ…ん~?…あ!なぁ~んだ、ただの絵じゃん!」
「あぁホントだ。行こう行こう」
面白くもなくサムイ台詞へと続くはずでした。加えて言ってしまうと
「絵だと気付かないなんて、わたしってリアルなのかな?」
と絵画作品自身が考えるのです。何でもありな世界。当時の私は、面白い作品だと思って描いたのです。
こんな事を1から先生に説明するのは面倒なわけで。私は誤解されたまま、誤解されるような答えしか言葉に出さず、しまいには涙を流していました。





わたし、何も悪いことしてないよ

どうして分かってもらえないの?

わたしは、がんばり屋さんで、おりこうさんで、いい子なんでしょう?

 
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