クライシス
二時間後、井上の付き添いで取り調べ室に入っていた江川が、慌てて捜査本部に入って来た。
「十日です!」
江川が本部に入って来るなり叫ぶ。全員があっけに取られた。
「何がやねん」
赤木が江川に尋ねる。
「テロの決行日は年明け、十日なんです!」
江川が叫ぶ。その言葉に全員が顔を見合わせる。
その後ろから井上が入って来た。
「ウイルスは別の工作員の手に渡った様ですね。物が何処にあるかと、ウイルスの数はキム自身も分からない様です」
井上が言う。そこに居る二百人全員が目を白黒させていた。
赤木と川村は顔を見合わせた後に井上に尋ねた。
「……どうやって、聞いたんや?」
井上は赤木の質問にポケットから小型のゲーム機を取り出した。
「これを一緒にやったんです。そしたら色々教えてくれました」
井上は笑う。
赤木が江川を見る。江川も激しく頷いていた。
そして他の全員は呆然としている。
「……ハハハハハ!」
赤木は思わず笑ってしまった。川村もクスクスと笑い出した。
「お見事!」
そして、そう言うと拍手をした。
赤木は笑いながら涙が込み上げて来た。それは、自分が選んだ若者が、自分の想像以上に急成長している事を嫉妬と感動が入り混じった物だった。
彼は思った。不謹慎かも知れないが、今回の事件は、この若者に羽を与えてしまったのかも知れない。そう、天高く舞い上がる為の羽を。




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