クライシス
十二月三十日十八時三十分日本国東京都千代田区首相官邸
桜井総理は首相執務室の席に座り一人で外を見つめ、昨日の会議を思い出していた。

昨日、外務次官から衝撃的な事を伝えられた。
北朝鮮に潜入した三人を乗せて帰ってくれるセレス次官が急遽搭乗させない、そう言って来たのだ。
抗ウイルス薬に関しては、日本に持ち帰る。だが、潜入した三人に関しては搭乗させる事は出来ない。理由としては万一、それが明るみになれば、北朝鮮側からの猛抗議が予想される。
現在核兵器問題で米朝間は微妙な時期である。もしも、東アジア担当の国務省次官が密入国者の海外逃亡の手助けをした場合、今後の交渉において相手にイニシアチブを取られてしまう。
そんな危険な橋を渡る事を大統領が禁じた。
だが、妥協案として抗ウイルス薬だけは持ち帰る。そう言う事だった。
確かに抗ウイルス薬が有れば一応は安心出来る。
「それでは、三人を見捨てろと?」
篠原長官は外務次官に向けて怒りを押し殺した表情をした。
「結果的に、そうなります……」
外務次官が下を向く。
「ただ、抗ウイルス薬は間違いなく届くんだろう?それなら、仕方が無いんじゃーー」
一人の大臣が呟いた。
「大臣!お言葉ですが、それは三人を……国の為に行動している、三人を見捨てる事に成るんですぞ!」
自衛隊統合幕僚長が思わず叫ぶ。
「自衛官は黙ってろ!これは政治の問題だ!」
その大臣が怒鳴り返した。
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