クライシス
十二月三十一日十時二十分北朝鮮平壌市内
雄介はタブレットを手に持ち、画面をじっと見つめていた。三宅はタバコを吸いながら、それをボンヤリと見つめている。
「来た」
雄介が呟く。
「何が?」
三宅は煙に回しかめた。
「昨日の内にターナーが、国内のIPアドレスにスパムメールを一斉に送ってくれてたんです。北朝鮮にはIPアドレスが1024個しか無いんスよ。殆どが政府機関になっていてーー」
「いや、もう良い」
「この前、ターナーが説明してくれたでしょ」
「いや、もう良いし」
三宅は激しく首を横に振る。雄介は溜息をつき、三宅に説明を続けた。
「要は、政府の関係者のパソコンにメールをおくったんですよ。それを誰かが開いたら、このタブレットで遠隔操作が出来る様になって、そこから軍事施設にハッキングします。北朝鮮ではインターネットが制限されてて、接続出来る人が限られてますから」
それでも、三宅は理解出来ないのか目を閉じている。雄介は首をすくめた。
北朝鮮はネットの接続は政府機関、研究所等しか出来ない。国民に北朝鮮製のスマホが出回っているが、国内のイントラネットだけに接続が可能だ。
ただ、外国人に関しては決められた場所でのネットの接続が可能になっている。だが、そんな場所からハッキングをすれば、一発で保衛省に拘束される。だから、政府機関のIPアドレスを乗っ取った。
「まあ、俺も専門じゃないんで、日本に帰ったら本でも買って勉強してください。いや、ターナーが居て良かった。教えられて無かったら俺もパニックでした」
俺一人じゃ、完全にヤバかった。三宅はホッとしながらタバコを消した。
「さてさて、ではターナー、お手製のコンピューターウイルスを流しますか」
そう言って雄介がタブレットをタップする。
「それで、あれか?研究室のパソコンから抗ウイルス薬の化学構造式をぬすむのか?」
「ホンマに三宅さん、ターナーの説明聞いてないっすね。そんな強固なセキュリティの場所は、外からじゃアクセス出来ないっす」
「じゃあ、どこにウイルスを?」
三宅の質問に雄介は少し笑う。
「備品係、っすね」
その言葉に三宅はキョトンとしていた。

「何だこりゃ」
軍事施設内の制服を着た若い男が呟く。
「どうした」
後ろに控えていた上官が尋ねる。
「いえ。あの、パソコンが、その、変なんです」
「どういう事だ」
おどおどと報告をする若い士官に、上官は少し苛立ちながら彼のパソコンを覗き込んだ。
「いえ、あの、トイレットペーパーが、その、八万個、発注されている、みたいで、その」
「何だこれは!貴様はどれだけケツを拭く気だ!」
上官が怒鳴る。
「いえ、違うんです。これ以外も、色々とおかしくてーー」
若い士官が言う様に、他の備品も確認する。確かにおかしい。
「センターに連絡!すぐに技師にきて貰え!」
その言葉に慌てて、若い士官は敬礼をした。
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