クライシス
イは蓋のネジを外した。
 由香が震えながらイを見ていた。それに気が付いたイは由香に笑いかける。そして懐から透明の瓶を取り出し、それを由香に見せ付けた。
「これが何か分かるか?」
 由香が怯えた表情でイを見る。
「分からないだろうな。一見、何も入って無い様に見えるからな」
 イは笑いながら、由香のアゴを持ち上げた。
「この中にはな、何十億ものウイルスが入っている。そしてこれに感染すれば必ず死ぬ」
 イが由香の目の前で瓶を振った。
「お前の恋人は、ワザワザこのウイルスのワクチンを取りに我が国まで来た。ご苦労なこった」
 イはそう言うと立ち上がり、コートから顔面を覆うガスマスクを取り出した。そして再びネジを外していく。
 由香は震えていた。ウイルス。確かに雄介の専門は微生物研究だった。由香がそう思っていると、イが作業を辞めて急に拳銃を取り出して由香に向ける。
 由香は驚く。銃口が由香の目の前に有った。撃たれる、と思う。しかしイが突然叫んだ。
「出てこい!隠れているとコイツを撃つぞ!」
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