クライシス
その声が響くと、入口のドアの物陰から人が出て来た。雄介であった。
「雄介!」
 由香の瞳から涙がこぼれた。雄介はイに拳銃を向けながら、近付く。
「ほう、よくここが分かったな?」
 イが笑う。
「アホでも分かる。どうせ北朝鮮の世間知らずの奴が考えそうな事やろ」
 雄介が呟く。
「なんだと?」
「とりあえず、もう辞めとけや。空調の電源は切った」
「何?」
 イが額をピクつかせる。
「だからお前が考える事はもう無理や大人しく投降せえ」
 雄介の言葉にイは手が震える。
「貴様は、一度ならずも我々の作戦を邪魔しやがって……!」
 イの顔色が見る見る内に赤く成っていく。本気で怒っている。
「アンタの扱いに関しては日本政府は悪い様にはしない。だから投降しろ」
 雄介も額から汗が出て来た。由香に向けられてる銃口を逸らしたい。そう思っていた。
「笑わせるな。貴様ら日本政府の手には乗るか」
 イはそう言うとウイルスの瓶を出した。そしてニヤリと笑う。
 雄介はそれに気が付いて、一目散に駆け寄る。
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