看護学校へ行こう
戴帽式
 初めての看護基礎実習が終わり、私たちは「戴帽式」を迎えることになった。ナースの証といえるナースキャップをかぶせてもらう儀式だ。戴帽式には父母らも出席する、結構大きなイベントなのだ。憧れのナースキャップ。これでたこ帽ともお別れだ。

 私たちは戴帽式の練習をした。一人ずつ名前を呼ばれ、壇上に上がり、ナースキャップをつけてもらう。そしてろうそくを持ち、壇上の中央にあるナイチンゲール像に灯ったろうそくの火から、自分の持っているろうそくに火を灯す。そして全員のろうそくの火が灯ったところで「ナイチンゲール誓詞」を暗唱するのだ。想像していたよりものものしい儀式だ。

 戴帽式当日。皆髪を整えるために、美容院を予約していた。長い髪の子はきれいに結ってもらうのだ。私は美容院で髪を頭部後方で束ねてもらった。寮に戻り、白衣に着替え、そのときを待つ。父母らはぞくぞく会場に入っていた。

「ああ、私、ナースになれるんだなあ。」

と、看護学校に入学したときとは違う感慨深さがあった。

 さて、本番。会場には父母らや市役所の偉い人、病院長、看護部長など大物がいらしている。窓には暗幕がかけられ、私たちは厳粛にゆっくりと、会場に入場した。静かなクラシック音楽がかかっている。各自自分の席に座り、名前を呼ばれるのを待った。名前を呼ばれると、教務長からナースキャップをつけてもらう。憧れのナースキャップ。ナースの象徴。そしてついに私の番がきた。私は静かに壇上に上がり、教務長の先生の前に立ち、かがんだ。そしてナースキャップをつけてもらった。感動である。だがくすくすとかすかに笑い声が聞こえる。みんな、何をふざけているんだと、腹立たしく思った。
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