蜜事中の愛してるなんて信じない
 先陣を切る正志の見よう見まねで、駅の改札のようなシロモノにチケットに書かれているバーコードをかざすとゲートがぱっと開いた。

 通行可能。ご苦労さんです。

 ゲートの先は、建物の名前に相応しい『未来』の世界だった。

 チカチカして、デザインが奇抜で、位置が奇想天外な展示がたくさんあった。

 見回して、正志の姿を探す。
 正志は、ひとつの展示の前に立っていた。

 無言で隣につくと、正志は、その展示についてとうとうと説明を始めた。

 基本的と思われる概要。私が質問すれば、詳しく、私が理解するまで根気強く説明してくれる。

 たまに出現する専門用語の意味も、私が問えば丁寧に耳打ちしてくれる。

 はっきり言って意外だった。

 だって、親切なんだもん。正志の癖に。
 そして、驚くほど博識。

 残念なことに、この時正志が説明してくれたこと、ほぼ全て、忘却の彼方へ帰らぬ旅に出てしまったけれど。

 というのも、私、展示物より、私に説明してくれる正志の顔ばかり見ていたから。
 目がね、すごくキラキラしていたのを覚えてる。
 ありきたりな表現しかできないけれど、その顔は、少年だった。

 檻の中のパンダを眺めている、かわいいーってあの感じ。
 実際はさ、どう猛なんだろうけど、ここから観覧しているぶんには、すごく嬉しい気持ちになれる。

「なんだよ」って不機嫌な顔でいつ言われるかってヒヤヒヤしながら、正志の顔ばっかり見てたな。

 それでも、「なんだよ」って言われなかったってことは、きっと、正志、私よりずっと展示に夢中になってたんだよね。

 なあんだ、コイツも子供じゃんって、私その時思ったな。
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