涙は煌く虹の如く
冷静になって周囲を見渡すと走っている間にすっかり見落としてしまっていたいくつかの情報が丈也の目に飛び込んできた。
丈也が身を潜めているナラの木の道を挟んで反対側には美久のものと思しき自転車が停めてあったし、そのカゴの中には美久の衣類が置いてあった。
「………」
また視線を湖面に移す丈也。
「シャーーーーッ…!」
美久は無邪気に泳いでいる。
その無邪気さ、というより丈也にとっては無防備さなのだがそれに丈也は言い様のない怒りを覚えた。
別に丈也が悪いわけでもないし美久が悪いわけでもないのにこのめぐり合いの悪さに不機嫌になってしまったのだ。
「どうしよう…?」
引き返すべきなのか?
それとも偶然を装って声をかけるべきなのか?
「フゥ……」
どうしようか迷い、ため息をつく。
「パシャッ…!」
しかしどの選択肢を考えることも無駄に終わったようだ。
「ザバァッ……」
美久が湖から上がった。
「ちくしょう……」
丈也は自分の存在を消してしまいたい衝動に駆られ、唾棄せんばかりに呟いた。
「ドクンッドクンッ……」
早鐘を打つ丈也の心臓。
「くはっ……」
抑えようとしても鼓動は大きくなるばかり。
無駄だとはわかっているのだが如何ともし難いもどかしさに丈也Tシャツの胸の辺りの部分を毟った。
現実論として考えれば今すぐ引き返すのが最善策だろう。
しかし、引き返すところを美久に見られないとは限らないし、万が一自分だと悟られてしまったら美久の中で丈也は単なる出歯亀野郎に堕してしまう。
(それは最悪じゃんよ…)
もう一つの方法は今まさに自分がここに来たという風に繕って堂々と美久に声をかけることだ。
これも上手くいけば問題ないが、決して丈也は美久の肢体を覗いていないという確証を美久に抱かせる演技ができるかといえば疑問符が付く。
丈也はそんな嘘で塗り固めてまで自分を守ろうとする考えを思いついた自分に嫌悪した。
「もうっ……!」
決して汗かきではない丈也だったが身体中を嫌な汗が伝っている。
「ハァハァ…」
激しい運動をしたわけでもないのに息まで荒くなってきた。
(消えてなくなりてぇなぁ……)
再び不可能なことを願った。
丈也が身を潜めているナラの木の道を挟んで反対側には美久のものと思しき自転車が停めてあったし、そのカゴの中には美久の衣類が置いてあった。
「………」
また視線を湖面に移す丈也。
「シャーーーーッ…!」
美久は無邪気に泳いでいる。
その無邪気さ、というより丈也にとっては無防備さなのだがそれに丈也は言い様のない怒りを覚えた。
別に丈也が悪いわけでもないし美久が悪いわけでもないのにこのめぐり合いの悪さに不機嫌になってしまったのだ。
「どうしよう…?」
引き返すべきなのか?
それとも偶然を装って声をかけるべきなのか?
「フゥ……」
どうしようか迷い、ため息をつく。
「パシャッ…!」
しかしどの選択肢を考えることも無駄に終わったようだ。
「ザバァッ……」
美久が湖から上がった。
「ちくしょう……」
丈也は自分の存在を消してしまいたい衝動に駆られ、唾棄せんばかりに呟いた。
「ドクンッドクンッ……」
早鐘を打つ丈也の心臓。
「くはっ……」
抑えようとしても鼓動は大きくなるばかり。
無駄だとはわかっているのだが如何ともし難いもどかしさに丈也Tシャツの胸の辺りの部分を毟った。
現実論として考えれば今すぐ引き返すのが最善策だろう。
しかし、引き返すところを美久に見られないとは限らないし、万が一自分だと悟られてしまったら美久の中で丈也は単なる出歯亀野郎に堕してしまう。
(それは最悪じゃんよ…)
もう一つの方法は今まさに自分がここに来たという風に繕って堂々と美久に声をかけることだ。
これも上手くいけば問題ないが、決して丈也は美久の肢体を覗いていないという確証を美久に抱かせる演技ができるかといえば疑問符が付く。
丈也はそんな嘘で塗り固めてまで自分を守ろうとする考えを思いついた自分に嫌悪した。
「もうっ……!」
決して汗かきではない丈也だったが身体中を嫌な汗が伝っている。
「ハァハァ…」
激しい運動をしたわけでもないのに息まで荒くなってきた。
(消えてなくなりてぇなぁ……)
再び不可能なことを願った。