涙は煌く虹の如く
「パチャッ…パチャッ…」
寄せては返す波の音。
「グゥ…ムゥッ…」
その規則的なリズムをかき消す呻き声。
「グゥッ……!」
呻き声の主は船主だった。
猿轡をされている。
「バダッ!バダッ!」
身体も拘束されていた。
必死になって自由になろうとするが上手くいかない。
「グムゥ…」

ここはH市にある港。
そこの船着場にU島からありえない時間にやってきた小さな漁船が停泊していた。
船主は丈也に拘束されたのだろう。
「ググゥッ……!」
「パチャッ…パチャッ…」
船主の呻き声と波の音がシンクロした。

「ハァ、ハァ…!」
H市の繁華街である駅前通を走る人影。
「クッ…、どこだ…!?」
丈也が必死の形相で”シーサイドホテル”を探している。
しかし、簡単に見つかると思ったホテルがなかなか見つからない。
H駅にある大時計は既に22:00を回っている。
丈也が上陸してから既に30分以上が経っていた。 

「……どこだよっ…!」
焦燥感が声に出てしまう。
思ったより人通りが多い中をすり抜けるようにして走る丈也。
夏休みで長い時間島にいた彼には曜日の感覚が落ちていたのだろう。
今日は金曜日の夜だったのだ。
漁業が落ち込み若者離れが進んでいる街とはいえ週末には相応の賑わいを見せるのだ。

「アァッ…!」
一向にホテルが見つからないので丈也は一旦立ち止まって怒りを露にした。
「フゥーッ……」
そして驚いて彼を眺めていく通行人の視線などお構いなしに呼吸を整えた。
(どうする…どうすればいい…!?)
心の中で自問する丈也。
だが、彼の中で答えは既に出ている。
ここは自分で探し出すしかないのだ。
スーツ姿の中学生が道を訊いたらそれだけで怪しまれるに違いない。
そう考えると丈也はさっき頓狂な叫びを上げてしまったことを軽く後悔した。
「チラッ…」
腕時計を見やると22:15過ぎ。
(急ごう…!)
「ダダダッ…!」
再び丈也は走り出した。

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