涙は煌く虹の如く
「……こういうことだったのな……」
繁華街の裏に入ったところの電柱に身を潜める丈也。
その視線の先には”シーサイドホテル”があった。
「わかるわけないじゃん…!」
おかしくて少し笑みが浮かんだ。
丈也は”シーサイドホテル”をシティホテルだと思い込んでいたのだが、実際はホテルはホテルでもファッションホテルだったのだ。

「ハハハ…」
笑い声まで漏れる。
目の前でギラついたネオンの花を咲かせている”シーサイドホテル”はファッションホテルというよりもひと昔、いやふた昔前のモーテルを思わせる品のなさを漂わせていた。
「キッ…!」
丈也の表情が引き締まる。
そして目に再び怒りの炎が宿る。
急にそれまで懸命に押し込んでいた”美久がどうなっているのだろうという気持ち”が湧いてきたのだ。
何ともいえない胸が掻き毟られるかのような憤怒が湧き上がって噴き出そうとしている。

「モゾッ…」
スラックスの左前ポケットに忍ばせたナイフの所在を確認する丈也。
「ダダッ…!」
確認を終えると一直線に走り出した。
「ダダッ…ダダダダッ…!」
勢い良く走り続ける丈也。
目の前に広がる流線の光景、狭くなる視野ももはや見慣れたものとなっている。
先程とは違い人目など全く気にせズカズカとシーサイドホテルへと侵入した。

エレベーターを確認する。
4Fで停まっていた。
部屋番号は『412号室』だったはず。
「階段っ…!」
そう叫んで丈也は階段を探した。
程なくして『非常口』と書かれたドアを見つけ、開け階段を一直線に駆け上がろうとする。

すると、
「おい、おめぇ何やってんだぁっ?」
と呼び咎められた。
「………!?」
丈也が振り向くとそこにはホテルのフロント係と思しき50歳代の恰幅の良い男が立っていた。
一見して素人には見えない。
「……いや……その…」
狼狽する丈也。

< 68 / 79 >

この作品をシェア

pagetop