僕の中の十字架


「ね、なんで?」


「気になるのか」


「いいえ。むしろいつの間にか俺を見下した喋りになったことの方が気になります」


「人称変わったぞ」


「ボクのほうが年上なのに」


「○リオカートで運転を学んだ馬鹿に何故? キャバクラの特別会員になるような馬鹿に何故? なんのためにお前に敬語が必要だ?」


「嫌でした?」


「何考えてるか知らんが、お前は自分の仕事が解ってるのか?」


「解ってますよ」


「どんな仕事か解ってるのか?」


「解ってますよ」


「言ってみろ」


「えーっと………」


「言えねぇのかよ! もういい!! リビング行くぞ。――――退け、邪魔だ」



女将軍のごとき口調でズンズンとあるき、僅かに開いていたリビングのドアを右足で蹴り開け、



「お前、覗いたら殴るぞ」



洗濯機の蓋に手を伸ばしていた富士原さんが、脅えてビクッとしました。

実は富士原さん、殴られるのが(特に女性・特にに北村さん)とても苦手で、父さんにも打たれた事がありません。アムロかお前は。

犬の気分になりながら、洗濯機から離れる富士原さんでした。




リビングはきちんと片付いていて、カーテンレースの白い姿を、フローリングが見事に影絵にしています。

リビングの両側に部屋のドアがあり、独り暮らしには豪華な造りです。
もう一人住んでも良さそうです。


北村さんは遠慮無しにさっさと入って行きます。

富士原さんは少し迷って、その場に止まりました。

勝手に入った時点で遠慮しなさいよあんた。






北村さんは、自分を迎える一対の瞳に気付き、



「うおっ?」



全く気配が無かったため、びっくりして声を上げました。



「どうしましたか?」



と訊いてくる富士原さんをシカトして、北村さんはゆっくりと、椅子に座ってこちらを向いてる人物に近付いていきました。



「すいません、あの……」



勝手に入ってすみません、警察です、と言う前に、北村さんは気付きました。










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