liftoff
 諦めたようにそう納得して、ひとりで、何度も頷く。 
 わたしは、立ち上がって窓を閉めると、またお湯に浸かる。大きく焔が揺れて、わたしの影も、揺らめいた。この光のせいだろうか、こんな風に、自己分析を冷静にしてしまうだなんて。しかも、自分で自分を納得させてしまうだなんて。
 でも、奇妙で仕方がなかった。何だかんだと言って、彼と出会ってから、一緒に過ごす時間が増えている。それなのに、お互い、まだ、名前を知らないのだ。
 それでも平気で側に居られる、そんな彼の一面を、恐れてもいた。
 わたしは、本当は、彼の名前を知りたい。でも、知りたくない気もする。
 ただ一瞬、知っていただけ、の相手で終わらせたいからだった。同じ理由で、自分の名前も進んで名乗る気がしなかった。近づきたいのに、近づきたくない。近づくのが怖い。自分の本性を見たくない。そうだったの?
 ああ、もう、彼に近づくのはやめよう。こんなに自分の中が混乱するのなら。
 ーーいつの間にーー?
 いつの間に、わたしはこんなに臆病者になってしまったのだろう。
 わたしは、途方に暮れて、膝を抱えた。すると、抑え難い切なさがこみ上げてきて、思わず、嗚咽を漏らしてしまった。
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