執事の憂鬱(Melty Kiss)
『それでね、おじさん』

小生意気な美少女が、すっと瞳を眇めた。
その仕草が、山下の脳裏に、銀組若頭補佐の紫馬宗太を思い出させて、背中がぞくりと粟立った。

滅多にその姿を見せないくせに、彼が絡むとろくなことにはならなかった。
警察を、あざ笑うような手口。
下手すると、山下の上司さえも紫馬には言いくるめられているようにしか見えないのだ。

その、ほとんど見たことの無いはずの男の甘いマスクが脳裏に浮かぶ。
ホストというよりは、映画俳優を思わせるしっかりした顔立ち。
煙草を銜え、冗談のような微笑を携えた彼の、黒い瞳が眇められたとき、誰の背中にもゾクリとした戦慄が走るのだ。

どうしても。

そこまで思い出して、山下はぶるぶると頭を振る。


目の前に居るのは紫馬ではなく、こんなに小さなガキなのだ。

……と。必死に自分に言い聞かせる。


『どうしても、あの患者さんを守ってあげてよ?
一つの傷だってつけちゃ駄目なんだから』

子供のものとは思えないような、冷たい視線に射抜かれた。


『うおおおおおっ』

緊張の糸が切れたのか、ついに斎藤が奇声を上げる。


自販機の裏から、先に飛び出したのは刑事という職につく山下ではなく、紅いランドセルが良く似合う女の子の方だった。


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