皎皎天中月
池畔
光だ。
恵孝は瞼の向こう側がとても明るいのに気付いた。
頬に何かが触れる。くすぐったい。とても細くて軟らかいものが束になっているような。いや、これは髪だ。菜音が、寝転んでいる僕を覗き込むように顔を近づけると、束ねられない長さしかない髪の先がこのように触れた。
そこにいるのか。
僕は、菜音がいる場所へ来たのか。
「菜音」
瞼を開けて良いのだろうか。
そこはあまりに明るい。だが、熱さはない。
やはり、菜音が旅立った場所へ、僕も来たのだ。
ならば、いま僕を見下ろしているその顔を。
「顔を、見たい。菜音」
ゆっくりと目を開こうとする。強い光が目を差すように飛び込んでくるのに、強く目を瞑ってしまう。が、頬に触れる髪の場所が変わると、光は弱まった。恵孝は再び、瞼を上げた。
強い光を背にし、恵孝に陰を作ってやっているそれは、菜音の――腹に宿していた恵孝の子と共に死んだ、妻の菜音の形そのものだった。
「菜音」
その影に呼びかける。髪は離れた。
喉と目が、きゅっと熱を持った。溢れ出ようとするものがある。
「菜音」
「この顔の主は、菜音というのか」
何を、言った。
降ってきた声こそ菜音だが、菜音のもの言いとはまるで違う。
「あ、恵孝、気付いたんだな。眩しそうだな、ちょっと待てよ。姐さん、」
これも、聞いたことのある声。
「⋯⋯玉兎?」
顔を声のしたほうに向ける。光が徐々に弱まっていく。
よく晴れた月夜のような明るさになり、鼻先に白い兎を捉えた。兎は、「ああ、俺だ」と頷くように首を振った。
「体を起こせるか? 難しかったら寝たままでいろよ。姐さん、手伝ってやって」
「私に指図するな、玉兎。第一、お前がやれ。私こそ動けない。右足の首が痛い」