あなたが一番欲しかった言葉
パシッ!

無言で男性は、エミさんの頬を平手打ちにした。

よろけたエミさんは、蒼白な顔で叩かれた頬を押さえている。

「おっかしいと思ったんだ。
やれ残業だ、やれ客が帰らないだ、後片付けが長引いただ、たかがバイトだろう?毎回言い分けつけては、帰宅が2時3時じゃ、いくらなんだっておかしいだろう?」

男性はエミさんの胸ぐらをつかむと、再び大きく手を振り上げた。

我に返った俺は駆け出した。

「すみません、全部俺が悪いんです、エミさんは何も悪くなんです!」

声を張り上げながら必死で男性の腕をつかむ。

「おめーは後からだ!黙ってろ!」

振り払われ、その勢いで尻餅をついた。
なんていう馬鹿力。

「旦那はトラックの運転手なの」

前にエミさんから、そう聞いたことを思い出した。
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