あなたが一番欲しかった言葉
平日のせいか、寺院の駐車場には1台の車しか停まっていなかった。

黒い高級車。

ひっそりと雨に打たれている。


手桶に水を張り、持参してきた線香と花を持って、イサムの墓石へ向かった。


視界の端に、黄色いものが横切っていった。
雨具を身にまとった、小さな子供だった。

雨がよほど楽しいらしく、きゃっきゃっと声を上げ、おぼつかない足取りで墓石の間を走り回っている。

子供の時は、僕も雨が好きだったっけ。

矢のように落ちてくる雨がどこからくるのか不思議で、ずぶ濡れのままいつまでも見上げ、翌日高熱を出した、遠い幼き日の思い出。

いつからだろう。雨が嫌いだと思うようになったのは。
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