あなたが一番欲しかった言葉
イサムの墓には先客がいた。

僕は少し下がって待つことにした。

膝を折ってしゃがみ込み、墓石に手を合わせ、故人との記憶を辿っているのか、身じろぎしない女性。

それが誰なのか分かり、深く、長くため息をついた。

こんな形で再会をさせる神様を、少しだけ呪った




「男の子・・・それとも女の子・・・かな」

黒い喪服の背中に、僕は話しかけた。

一瞬ぴくりと肩を動かし、女性は振り向くことなく、短く「男の子です」と答え、
ゆっくりと立ち上がり、僕の方を振り向いた。



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