あなたが一番欲しかった言葉
「いやあ、イサムの唄には僕もびっくりした。
『天は二物を与えず』なんていうけど、あいつに限っては唄は上手いし、顔も良し、痩せててスタイルも良し、三物も四物もあって、まったくずるいわ」

「ふふふ、妬まないの。ヨシ君はヨシ君のいいところがあるじゃない」

「たとえばどんなとこ?」

ふっと真梨子は微笑み、「しょうがないわねぇ」と前置きしてから、子供に宿題を教える母親のように、丁寧に教えてくれた。

「ヨシ君は心が優しいわ。それに、言葉にするのが難しいけど、人間としての奥行きを感じる。それと・・・」

「おっと、そこまで」

まだ何か言おうとする真梨子の言葉を遮った。
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