あなたが一番欲しかった言葉
「あたし、夜の海に来たのって初めてかもしれない。
海も真っ黒、空も真っ黒、どこが水平線か全然分からないのね。吸い込まれて行きそうで、なんだか怖い・・・」


真冬の夜の海は、真梨子の言う通り、墨汁でもぶちまけたような漆黒に包まれている。

見えないさざ波の音だけが聞こえてくる。


「真梨子、見上げてごらんよ」

「うわぁ~」


今にも落ちてきそうな、数え切れぬほどの星屑。

「すご~い。たった車で40分の同じ県内なのに、どうしてこんなに星が多いのかしら」

子供のような無邪気な問いに、僕は軽く笑いながら答えた。

「星が多いわけじゃないよ。量は増えないさ。僕らの町とこの海の違いって、なんだか分からない?

「あ、空気ね!」

「うん、そうだよ。向こうとは空気の違いなんだろうね。
こっちはきっと綺麗なんだ。空が澄んでいるから、それだけ星が見えるのさ」
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