ヒサイチ
私が感心しているのが分かったのか、ヒサイチは気を良くしたように動く魚図鑑の如く、水槽の中の魚について、特に味について、丁寧に説明してくれた。
お金を払って旅行先で頼んだガイドよりも親切かもしれない。
こんな風に男性と二人で出掛けて、相手に一生懸命話してもらったのは初めてだ。
文也とは水族館を廻っても、大した話をした記憶はない。
おそらく文也が、一番関心が深いのは自分の仕事の分野で、それ以外は無関心に近かった。
だから二人の間の会話は、水族館にいても部屋にいてもさほど変わりはしなかった。