だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
29.苺の香りに包まれて
◇大雅side◇

頭の痛い話題で持ちきりだった会議も無事終了。
よくもここまできな臭い話が揃えられるものだと、内心感心するほどだ。
しかも、内容がヤバければヤバいほど、幹部らのテンションは上がっていくのだから始末が悪い。

人を殺すのに躊躇いは持たないが、だからと言って、決してテンションが上がったり高揚したりはしないので、どうにも気持ちが分かり合えた気がしなかった。

もちろん、人を見たら即座に内臓を金に換算することしかできない、紫馬さんの思考回路なんて一生理解できるとは思えない。

とはいえ、会議終了後、俺と紫馬さんは打ち合わせるわけでもなく、気づけば二人でキッチンへと向かっていた。

「紫馬さん」

「ん?」

長い廊下で、手持ち無沙汰に聞いてみた。

「そもそも、あんな不摂生ばかりしている中年男たちの内臓、移植して役に立つんですか?」

紫馬さんは、形の良い瞳をかすかに細めた。
面倒な会議が終わったからか、散歩を許された飼い猫のようにのびのびしていた。

「あのさ、大雅くん。
そこはほら。
単価の安い飲食店と一緒で、回転率が命なの。
あら、この間の肝臓、合わなかったんですか? 新しい肝臓手に入れたんですけど、どうします? ってね」

車を勧める営業マン並みの丁寧な言葉遣いで、いつかの会話を再現してくれる。

……どこまでも、腹黒いんですね。

言葉に出来ない思いを飲み込んで、そっとキッチンの扉を開けた。
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