だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
キッチンには、夕食の匂いが立ち込めていた。

手前のテーブルで都さんは突っ伏している。
その隣で、清水は単行本に目を落としていた。

「お疲れ様です」

俺たちの姿を見て、即座に立ち上がる。
優雅でスマートな立ち振る舞いは毎度のことだが、もしかしたら都さんはこういうのに弱いのかと勘繰っている自分が居た。

「都さん、すっかり眠ってしまいまして。
良かったら連れて行ってもらえませんか?」

清水が遠慮も躊躇いもなくそう言った。

「自分で連れて行けばよかったのに」

紫馬さんがあっさり言い放つ。
気づけば早くもその口に煙草を銜えていた。
都さんがここから出て行けば、すぐに火をつけるつもりなのだろう。

「そうやって面倒ごと全て私に押し付けるつもりですか?」

冷たく言い放つ清水の表情から、真の想いは読み取れない。
完璧なまでのポーカーフェイスを、ふいに崩して微笑みかけられたら……。

そうやって、いちいち都さんの心の動きを想像している自分に心の中で苦笑を浮かべ、糸の切れた操り人形のようにぐったりしている都さんを抱き上げた。

一瞬、瞳を開けてそこに俺の姿を確認するとうっすら微笑んでそのまま眠りに落ちていく。

彼女から香る苺の香りに、ささくれだっていた気持ちが溶けていくのを認めずにはいられなかった。
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