愛しい遺書
「……どうしたの?」

あたしは目を反らしたままグラスを受け取った。

「何が?」

「……なんか、いつもと違う……」

明生は何も言わなかった。

「お前こそ、何でそんなに酔っ払ってんだよ。仕事だったんだろ?」

「ちょっとハメはずしちゃって……」

明生を目の前にして、「やけ酒」とは言えなかった。

向かいのソファーに座り、煙草に火を付けている明生の顔を見て、あたしは驚いた。

「明生……、その顔どうしたの?」

左の頬は内出血し、唇の端が切れ、血が固まっていた。

「……殴られた」

明生は頬を擦りながら言った。

「誰に……?」

「……女。大したことねぇよ。」

「……血ぃ出てるよ?」

「あぁ、グーで殴ってきてよ。そいつのはめてた指輪で切れた」

口を動かす度に歪んだ表情をする明生を見ていられなくなったあたしは、脱衣室からタオルを持って来て水で濡らし、明生の頬を押さえた。タオルを押さえているあたしの手を、明生は自分の手でさらに包み

「キキ……慰めてよ」

と言った。

弱ってるのは、あたしの方なのに……。

そう思いながらも、あたしは言われるままに明生の大きな体をハグした。

「あーぁ……」

明生はため息を漏らすと、あたしに腕を回した。

「何も望んでねぇっつう女に限って、欲深くなるのは何でだ……」

あたしは自分の事を言われているようで、何も言い返せなかった。




街のチャイムが朝6時だと鳴りだした。あたしたちはベッドの上で抱き合いながら聞いていた。

明生にいつもの獣のような勢いはなく、いたわるように優しくあたしを愛撫した。

何があったの……?

あたしは不思議でたまらなかった。でも、聞いたところで明生はきっと答えてくれない。

明生はあたしの首筋に噛み付くのと同時に、あたしの中に入ってきた。

あたしは小さく鳴いた。すると明生はいつものように激しく腰を揺らした。あたしの鳴き声が段々大きくなると、明生は意気なり動くのを止めた。

「……明生?」

あたしが擦れた声で言うと、

「なぁ……、愛ってなに?」

と、真面目な顔で言った。

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