愛しい遺書
あたしたちは改めてこれからの予定を考えた。

「腹減らね?」

あたしが思っていた事を、翔士が先に言い、とりあえず何か食べに行く事に決まった。

夜の仕事をする前、マナカや友達とクラブで遊んだ帰りによく通っていたレストランバーに行った。店のドアを開けると、男前なマスターが「いらっしゃい」と言って迎えてくれた。

「こんばんは」

あたしは翔士より1歩先に入って言った。

「お!キキ〜!久しぶりだな!」

マスターは相変らずテンション高く言った。

「え?キキちゃん!?」

そう言って厨房からマスターの彼女も顔を出した。

「お久しぶりです」

あたしはペコリと頭を下げた。後ろをついてくる翔士を見て、マスターは

「久しぶりに顔見せたと思ったら、男と一緒かよ〜!」

と言いながら、

「はじめまして!」

と翔士に手を差し出した。翔士はマスターのテンションに呆気に取られながらも「はじめまして」と言って握手した。

あたしたちはカウンターに座った。飲み物のオーダーを聞かれて、あたしは普通に酒を頼んだが、翔士はノンアルコールを頼んだ。

「飲まないの?」

あたしは翔士の顔を覗き込んだ。

「一応運転手だからな。……さんざん飲んでて言う事じゃねえけど」

翔士は肩をすくめて言った。

マスターが飲み物を持って来て、あたしたちは乾杯した。食べ物を注文するとマスターはまた厨房に引っ込み、あたしたちは他愛もない会話をしていた。

今は翔士の事だけを考える時間。

あたしは明生との事を何もなかったかのように振る舞い、翔士も一切その事には触れず、今を楽しんだ。

「おまちどおさま〜!」

マスターがあたしたちの頼んだ食べ物を運んで来て、目の前に置いた。あたしたちは手を合わせていただきますをし、食べ始めた。

「やべぇ。ウマい!」

翔士は昼間見せた子供のような顔で、勢いよく食べていた。

「うまいだろー?オレとマチコの力作だ。愛情の両が違う!」

マチコとはマスターの彼女。マスターは満足気に言った。

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