愛しい遺書
きっと出来ない。

翔士との間に、確かなものはまだ見えない。だけど、明生とはそれ以上に見えない。

「繋がり」を作ってしまったあの日、不確かなものでも未来を期待していたのは翔士だけじゃない。あたしもそうなのだ。だけど気付かないフリをしていたのは、明生があたしを必要としている時は、1分でも1秒でも長く一緒にいたいから。今のあたしには明生を断ち切る勇気がないのだ。

あたしはズルい……。

「ごめん!」

翔士は煙草の火を揉み消すのと同時に、続いていた沈黙を破った。

「キキに好きなヤツがいるのを承知で、それでもよくて今こうしているのは、オレが決めた事だ」

そう言って翔士は両腕でハンドルに伏せた。

「勝手にヤキモチ妬いて、言いたくない事言わせて……ごめんな?」

ハンドルに伏せたまま、顔だけこっちに向けた翔士に、あたしは首を横に振った。

「マナカちゃんが言ってたんだ。キキがアイツと知り合ってから、他のヤツと繋がりを作ったのは、オレが初めてだって……」

「……」

「オレ勝手に浮かれて、勝手に欲張っちまった……ごめんな?」

あたしは首を横に振った。

「ううん。こっちこそごめんね。あたし……」

ズルいよね。

そう言おうとすると、翔士があたしの言葉に被せた。

「ズルいとか言うなよ?さっきも言ったけど、オレはオレの意志で今日ここまで来たんだから」

……翔士の勘の鋭さにはお手上げだ。あたしはこんな状況の中、感心しながら頷いた。

「キキ……」

「……?」

「オレ、少しは期待していい?」

翔士は冷静を装っているが、目は怯えていた。もう少し翔士と一緒にいて、この先を見てみたい。それがあたしの今の気持ち。

あたしは首を縦に振った。

「今はまだどうしていいかわかんないけど……翔士といる時は、翔士の事だけを考えるよ」

そう言うと、翔士は嬉しそうにはにかんで、

「じゃあ、今だけキキはオレのもの」

と言った。

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