愛しい遺書
寝室にはあたしたちの重なる音が生々しく響き、翔士とあたしを更に興奮させた。翔士は耳元で何度も「愛してる」と囁き、ベッドが壊れてしまうんじゃないかと思うくらい激しく軋ませて腰を振るとあたしから離れ、熱くなった白い液をお腹の上に出し、あたしに覆い被った。あたしは息を切らしながら天井をぼんやり見ていた。

部屋を暗くしていた遮光カーテンはさっきの振動で少しだけ開き、朝だという事を思い出させるような金色の光が差し込んでいた。その光は翔士の背中を照らし、背中を這っている龍が光を放っているような錯覚に陥った。そっと背中の鱗を指でなぞると、翔士はビクッとして慌てて起きた。

「ごめん……重かっただろ」

あたしは首を横に振った。起き上がろうとすると翔士は止めた。

「ちょっと待ってて。ティッシュ持ってくる」

ベッドから下りて歩く翔士の後ろ姿を、あたしは目で追った。

さっき半分しか見えなかった虎の姿。蓮の花が浮かぶ水面に凛と立ち、龍の持つ珠を見上げている。

全て完璧に思えた翔士の刺青に、あたしは物足りなさを感じた。

龍、虎、蓮、水、それら全てにキレイに色が入っているのに、珠だけは筋彫で終わっている。

「背中、まだ途中なの?」

「……?何で?」

「珠だけ色が入ってないから……」

そう言うと翔士は「ああ……」と言いながらティッシュを何枚も重ねて取り、戻って来た。

「オレさ、この珠には人生の中で一番大事なものを入れてぇんだ」

あたしのお腹を拭きながら言った。

「一生残るだろ?だから慎重に考えてんの」


「そーなんだ」

これだけの体を張った芸術にあたしは魅了され、目を離せずにいた。

「オレ、どれだけ出したんだよ……」

そう言うと翔士はまたティッシュを取りに行った。

「箱で持って来たら?」

あたしは翔士の背中に向かって言った。

「昔さ……『ティッシュ取ってって言われて、中身だけを渡す人には愛情があって、箱ごと渡す人には愛情がない』って言った女がいてさ。それからなんとなく意識するようになって」

翔士はやっぱり中身だけを何枚も重ねて取り、戻って来た。

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