愛しい遺書
「キキ……?」

翔士があたしの顔を覗き込んだ。あたしは我に返り、咄嗟にとぼけた。

「美味しいけど、多いなと思って……」

考えてたのはそんな事じゃない。翔士は絶対気付いてる。それでも合わせてくれた。クレープを持つ手を自分に寄せ、大きく一口食べた。クレープから口をはなした時、溶けたアイスが翔士の髭を真っ白に染めていた。

「翔士、おじいちゃんになってるっ」

あたしは笑いながら言った。

「可愛いだろ」

そう言って紙ナプキンで口を拭った。翔士はあたしの心の中を塗り替える為にわざとやったと感じた。あたしは大分小さくなったクレープを一気に食べた。紙ナプキンで口と手を拭き、ゴミ箱に捨てると翔士が「行くか」と言って手を差し伸べた。あたしは手を掴んだ。

「翔士……」

「ん?」

「今日、泊まってもいい……?」

翔士は驚いていた。でもすぐに嬉しそうな顔をした。

「マジで!?構わねぇよ!……でもなんで急に?」

「…………」

明生に会いたくないからなんて言えない。

「明日電車で帰るし、迷惑かけないから……」

答えになっていないのは解ってる。でも都合のいい言い訳もできない。

「迷惑じゃねぇよ……ホントは返したくねぇって思ってたんだから」

翔士は耳を赤くして、頭を掻きながら言った。

「ありがとう……お世話になります」

あたしは微笑みながら言った。翔士はあたしの手を強く握り歩き始めた。





デパートの地下に行き、カートにカゴを入れると翔士が押してくれた。夕飯のメニューを考えていると、翔士が「肉食いたい」と言い、だったら酒を飲みながら食べれるようにと簡単な焼き肉に決定した。2人じゃ食べきれない程の肉と野菜を大量にカゴに入れ、ビールを1ケース、カートに乗せた。レジに並んで財布を出すと、またも翔士が手を止めた。

「ここはあたしに払わせてよ」

「いいって!」

「クレープ代だけじゃお礼にもなってないよ……」

「そんなの求めてねぇよ……あ、じゃあさ、あれ。あそこで何か買ってよ」

翔士が指差した先を見ると、たまにテレビで紹介されるケーキ屋だった。
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