愛しい遺書
「翔士、甘いものも好きなんだね」

「うん。好き。でもあーいうのって男1人じゃ買いづれぇ」

「もしかして、ケーキも食べられなかったの?」

「いや。一応ケーキという名のモンは食ったな。ニンジンケーキだとか、ほうれん草のケーキだとか、健康オタクの考えそうなモンばっか。でも、クリームとかねぇからモッサモサだし、口の中の水分みんな持ってかれるみてぇな」

翔士が苦笑いしながら話していると、レジが空いてあたしたちの番が来た。翔士が会計をし、サッカー台で食材を袋に入れると、まっすぐケーキ屋に向かった。ガラスケースの前で、小さな女の子の客と仲良く並んで、どれにしようか迷っている翔士の姿が可愛らしく、あたしは笑いを堪えるのに必死だった。

「迷ってる?」

「めちゃくちゃ迷って!あれとこれと、あとこっちと……」

そう言って翔士は5個指差した。あたしは店員に声をかけると、翔士が指差したケーキを全て2個ずつ注文した。

「マジでいいの?」

「いいよ。好きなだけ食べようよ」

そう言うと翔士は満面の笑みを浮かべて頷いた。



ケーキの箱はあたしが持ち、それ以外は全部翔士が持って駐車場へ向かった。買い物袋の他にビールも1ケース持っている翔士をあたしはリアルに心配したが、「これくらい持てねぇと仕事つとまんねぇよ」と顔色一つ変えずに言った。 

駐車場に着き車を見つけると、翔士はあたしに尻を向け、「鍵開けてちょーだい」と言った。あたしはポケットに刺さっているキーケースを取り鍵を開け、後部座席のドアを開けた。荷物を置くと車に乗り込み、家に向かった。車の中で、翔士はやっぱりあたしの手を握った。



家に着き、荷物を運ぶとキッチンに入り、夕飯の支度を始めた。キャベツを洗っていると、翔士が「よかったら着て」と言って、部屋着のTシャツを持って来た。

「……?」

「オレん家エプロンねぇから、服汚さねぇように着て」

そう言うとあたしの頭にTシャツをくぐらせた。ブカブカの翔士のTシャツ。あたしはお礼を言って腕を通し、下ごしらえを続けた。その間、翔士はテーブルをセッティングしていた。

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