愛しい遺書
「これぐらいどーって事ねぇよ」

翔士は3個目のケーキを食べながら言った。

「気にしてんの?」

「しないワケないよ。ハタチ過ぎた頃からお尻がおっきくなった気がする」

「今ちょーどいいんじゃね?」

「……今のままでいられたらいーけど……」

「外人みてぇに尻の辺りだけワイドになるとか、日本人はねぇだろ」

「……あたし、混じってるから」

翔士はあたしを見た。

「……ハーフってコト?」

あたしは頷いた。

「日本人離れしてんなぁとは思ったけど、マジでか……」

あたしはもう一度頷いた。

「英語が上手いのは親譲りなんだな……」

「ううん。ママは日本人だよ」

「じゃあ、とーちゃんが?」

「アメリカ人。……でも写真でしか見たコトない」

「……死んじゃったの?」

「ううん。元気だよ。……他に家庭があるの」

「……そういう事か……」

翔士は食べかけのケーキを置き、煙草に火を付けた。

「前にクラブで知り合ったって言ったでしょ?ママの一目惚れだったって。でもパパには彼女がいて、ママはそれでもいいってめちゃくちゃアピったって(笑)。略奪愛とまではいかなかったけど、たまに会ってるうちにあたしができちゃって………。でもママはパパの幸せを壊したくなくて身を引いたんだって」

「……じゃあ、とーちゃんはキキの存在を知らねぇの?」

あたしは首を横に振った。

「あたしが産まれて5ヶ月くらいの頃に、あたしを連れて買い物に行ったら偶然会ったんだって。パパの彼女、妊娠してお腹大きくなってたって。パパ、あたしの顔見て驚いたみたい。……この顔じゃあ純日本人には見えないでしょ」

「……それで?」

「あたしのほっぺにチュッってして『許してくれ』って……目に涙溜めて言ったんだって」

あたしは笑いながら言った。可笑しい話じゃない。その頃あたしは小さかったから、もちろん記憶にはない。けれどママの心の中には今でも出会った頃のパパが鮮明にあるのだ。あたしとママは友達同士のように何でも言い合い、時々喧嘩もする。でも、いつも仲直りした後は『キキはパパがくれた愛のカケラなんだよ』と言う。ママはパパを今も変わらず愛しているのだ。新しいパパが現れ、妹が産まれ、幸せに暮らしている今も。




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