ハッピー☆ハネムーン


「どっかで見た事あると思ってたんだよ」


「え? アツシ君……の事?」


「そう。知ってたんだ。 彼は、瀬戸 淳。
世界的に活躍するピアニストだったんだ」


「え? ……えぇ!? そうなの!?」




ポカンと口を開けたまま、ピアノの前に座るアツシ君に視線を戻す。



目を閉じているアツシ君。


集中でもしてるんだろうか?


そして、静かに目を開けるとその長い指が鍵盤を撫でた。




「……」



その瞬間――


あたしは息を呑んだ。



今まで、賑やかだった店内も一気にその雰囲気を変えていく。



優しく、包み込むような音色。



アツシ君は、体ぜんたいで奏でていた。



これが、世界……なんだ。



鳥肌がたつ感覚を、音楽を聴いて初めて感じた。




「“あなたに…………”」


「……え?」



ポツリと呟いた慶介。



「この曲のタイトルだよ。 “あなたに最高の幸せを”」


「……あなたに最高の…幸せを…」



あたしも繰り返すように言った。

癒される。とはこうゆう事なんだろうな……

いつの間にか頬に伝う涙に気づく。


その瞬間、左手にあたたかい感触。
それは。
慶介が、あたしの手をそっと包み込んだからだった。




アツシ君と昌さんは、あたし達に“最高の贈り物”を送ってくれたんだ。




ありがとう。


こんなに素敵なプレゼント……もらった事ないよ。
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