月影
「レナは自分の幸せってモンを考えたことがあるか?」


唐突に、岡ちゃんは問うてきた。


言葉の意味すらわからずまばたきを繰り返すと、「お前は幸せなのか?」と付け加えられた。


即答出来なかったことに対する罪悪感が、次の瞬間には襲ってくる。


拓真が居てくれて、それ以上何を望んでいるのだろうか。


あたしは今、幸せなはずなのに。



「…わかんない。」


呟くと、今度は空虚感に襲われる始末。


綺麗に治ったはずの傷の下で、炎症でも起こしているかのよう。


失ったものが多すぎて、自分自身の形を見失っているのかもしれない。



「好きな人があたしのことを好きって言ってくれてるの。
なのに満たされてない気がする。」


岡ちゃんだからか、あたしは迷いをそのまま口にした。


終わった気になっているだけで、本当は目を背けているだけ。


足を踏み入れてさえいないあの部屋に戻ればきっと、今もまだ、忘れられない香りに満ちている気がする。


だから、怖かった。


偽物の愛に慣れすぎて、本物に飛び込むことが怖いのだ。



「それはお前が心から望む形じゃないからじゃないのか?」

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