月影
核心的な言葉が突き付けられた。


拓真、拓真、拓真、と頭の中で繰り返すが、ジルの顔ばかりが意識の真ん中を支配する。


返答の遅れたあたしに唇の端を持ち上げ、嶋さんはひどく恐ろしい瞳をした。



「俺も長丁場のゲームには飽きてきたところだ。」


そして勢い良く煙を吐き出しながら、灰皿へと煙草を押し付ける。



「ネーチャン風俗行けや。
そしたらジルは助けてやるよ。」


何を言っているんだろう。


威圧的な空気に思考が及ばず、言葉の意味すら曖昧だ。



「…ギンちゃん、は?」


「ギンだけ残るんだよ。
一番ジルコニアが嫌がる方法だろう?」


あたしが風俗に行って彼を助けるということ。


そして、一番救いたかった親友だけを残し、自分が助かるということ。


ジルは絶対にそんなことを望まないだろうけど、でも確実に、彼だけは助かる。


もう関係もないあの人のために、あたしは自分を犠牲に出来る?



「…そんな、こと…」


拓真がいて、だから選択肢にすらならないはずなのに。


なのに何故、あたしは揺らいでいるのだろう。



「あたしがあなたの言葉を信用すると思いますか?」


「地獄に垂れ落とされた蜘蛛の糸だ。
掴む以外に希望の光はねぇはずだぞ?」


言ってくれるじゃない。


こんな男のどこに、“希望の光”など見い出せというのか。

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