月影

気付いた事

失ってから気付くのだと、人は言う。


失くさなければ、大切なものには気付けないのだ、と。


ジルを愛してるのだと気付いたからと言って、どうすることも出来なかった。


だってあたし達の道は完全に断たれているし、何より、何かが変わるわけでもない。


彼には彩が居るし、あたしにだって拓真が居る。


それぞれの居場所は別々にあって、本来それは、交わることがなかったのだから。


何よりジルには、あたしなんかよりもっと、優先させなければならないことがあるのだ。



「…彼、他に女が居るのかも…」


悔しそうに、彩は呟いた。


まさかこの子が、あたしの前で愚痴るとは思いもしなかったわけだが。


それ以前にこの手の相談は苦手だし、何より、そんなことも承知で付き合っていると思っていた。



「…確かめたわけじゃないんでしょ?」


おまけに何で、あたしが黙って話を聞かなくてはならないのか。


虚しさは増す一方だったが、レナさんにしか相談出来ないんです、と言われた手前、それを顔には出せなかった。


彩はふるふると首を振る。



「なら、あたしに相談したって何もならないよ。
ギンちゃん辺りにでも聞いてみたら?」


面倒なことになるのがわかっていたので、問題事ならそっちで勝手にしてくれ、と言った感じだ。


彩はこくりとだけ頷いたので、あたしはほっと安堵して、腕時計で時間を確認した。


これはあの日、シュウのお墓の前でジルに会った後に買ったものだ。


左手首に寂しさを覚えたから。



「彩ってあの人と一緒だったら死ねる?」

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