テディベアは痛みを知らない
まるで子供が、買ってもらったばかりのぬいぐるみを手に、駆け出していくようだった。

走るのに自信はある。

なのに私は、この男子にほとんど引きずられた。

足が何度もほつれて、そのたびに彼が「ほらしっかり」と手を引く。

階段を駆け降り、廊下を走り抜け、校舎の外へ。

すでに放課後だから、学校は、部活で残っている人達の声しかしない。

グラウンドで、野球部がノックをしているのが見えた。

カキーン――空はほのかに紫で――「おらサード、キャッチしっかりしろ!」「ぁいっす!!」――カキーン――風が、夜の湿気を帯び始めている。

私は、赤い夕暮れよりも、こういう、ダージリンの葉みたいな夕刻、のほうが好きだ。

名前すらまだ聞いてない彼は、体育館裏にある部室長屋に私を連れていった。

うちの高校は、体育館裏に『長屋』と呼ばれてる部室の連結小屋がある。

全長は百メートルにもなるっていうこの長屋に、右の部屋から体育会系、左から文系が当てられている。

四畳くらいのここを活動場所か物置にするかは、部次第だ。

「ここだよ、ここ」

と、左から数えて三番目の部室で、彼が立ち止まる。

左からということは、文系の部室か。
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