しょうがい
さらに十時間が経った(しかしながら、これはあくまで僕の体感時間であり、実際には一時間あまりであった)。すると突然手術室のランプが消え、中から白衣に身をまとった一人の男性が現れた。

養父はそれを目にするなりすぐさまその医師のもとへと駆け寄り、医師の口から手術の結果が出るのを待った。

「どうでしたか?妻は、妻は大丈夫なんですか」

医師の口がなかなか開かなかったため、養父は興奮しながら問い詰めた。その興奮具合は尋常ではなく、終いには医師に殴りかかってしまうのではないかとも思えた。

そんな養父の勢いに押されたのか、医師もいよいよ口を開いた。その言葉に養父はもちろん、北沢親子、また僕までもが真剣に耳を傾けた。

「残念ながら――」

医師はうつむき加減に、首を横に振りながら言った。その場に居合わせた者達は、医師の言葉を全て聞かずとも、そのわずかな仕草だけで全てを悟るに至った。

一同はまるで時が止まったかのような衝動に襲われ、皆が頭を抱えた。養父はその目に涙を浮かべながら立ち尽くし、北沢親子はそろって顔を伏せていた。しかしそんな中、僕だけが別の世界に居るようで、僕はこれといった哀しみを感じることが出来なかった。いや、正確に言うならば養母が死んだという事実を認識出来なかったのである。
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