魔王に忠義を
「!!」

俺の背中に命中する直前で、弾丸は止まった。

まさしく空中で静止したのだ。

「間一髪で仲間の危機を救う!私ってばかっこよくない?」

空気を読まない、あっけらかんとした声。

振り向くと、そばにはアイシャが立っていた。

「アイシャ!?」

「風の魔法を応用した障壁よ。拳銃程度なら防げるの」

誇らしげに彼女は笑みを浮かべた。

攻撃に特化したファイアルの炎の魔法、治癒や薬学に特化したアイスラの水の魔法と違い、フーガの魔法は応用に富む。

移動、防御、攻撃など、術者の想像力次第で無限のバリエーションを見せるのだ。

「『この娘は口うるさいだけで足手纏い!』って思ってたでしょ?ヴァン、ごめんなさいは?」

「…ああ、素直に詫びよう」

俺は微かに笑みを浮かべる。

…最早作戦など決める必要もあるまい。

俺が言うでもなく、アイシャは俺の身に風の障壁を施した。

足元から上昇気流のように吹き上げてくる不可視の風。

体感する分にはそよ風のようにしか感じないが、この風が凶弾すら防ぐのいうのだから、まさしく魔法とは神秘の力だった。

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