波の音がずっと聞こえてる
「どこに行く途中だったの?」

わたしは、
知らない男の車の中で、
赤い車の助手席で、
知らない男から
ウェットティッシュと
消毒液を借りて、
傷の手当てをしていた。

わたしは、
すごく簡単に、
あまり感情をこめずに、
海、とだけ答える。

つぎに男は、こう言う。

「連れていこうか?」

男は言うべきことを言ったので、
わたしは、
せりふを当てることができた。
まったく予想していた通り。
だからわたしは、
用意していた言葉で答える。
自分の足で歩いて行くのだと、
男に説明する。
伝わらないと困るので、
今度はすこし、
ていねいに告げた。
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