波の音がずっと聞こえてる
波の音の通話は、切れていた。
海からの電話は、切れていた。
ケータイ自体は、
角が削れて、すこし割れていたけれど、
それ以外は壊れてはいないようだった。

海からの電話は、
またかかってくるだろう。
そのことはあまり心配していなかった。
非通知だったし、
こちらからかけるにしても、
番号はわからない。

しかし、もうすぐバッテリーが切れる。
わたしと海との
つながりが切れる。
でも意外と冷静だ。
そこに不安はあまりない。
わたしが海へ行くことは
もう決まっているから。
それに、
電話はまたかかってくる。
電話がなくても
海には行けるけれど、
それでもわたしのために、
電話は来る。
そこまでわかってしまう。

車で海まで乗せていくという
男の提案を断る。
そのかわり、
車載の充電器があったら、
すこしだけ充電させてほしいと
頼んでみる。
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