求命
集会場で、色黒の男が声を上げた。
「い、妹をあんな風にした奴は許せねえ。とっ捕まえて殺してやる。」
男は一番はじめに殺された女の兄だ。つまり一番最初の被害者となる。その男は哀しみにくれていた。何日も、何日も。それが自分の妹と同じ境遇にあった被害者の話を聞いているうちに、哀しみが怒りに変わり、今日に至ったと言うわけだ。
「そうだ。そうだ。」
年頃の娘を持つ親たちが、男に賛同した。まぁ、当然の態度だろう。しかし、その中にはあの男もいた。そう、娘を手にかけた男だ。男は何食わぬ顔で集会に参加していた。人の家族を手にかけておきながら、この態度はいったいどんな心境からなのか。当の本人以外には知るよしもない。
「とっ捕まえて殺してやれ。」
そうも付け加えた。それが実行されれば困るのは自分なのに、そう言い放った。男の言葉をきっかけに、他の者のボルテージは最高潮に達した。その様子を、妹を殺された男は見ていた。何かを感じ取ったようだった。
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