加納欄の記憶喪失 シリーズ5
「ちゃんと、いい子に署で仕事してますってば」

 あたしは、軽く笑いながら、返事をした。

「ま、疲れてるだろうから、ゆっくり休めよ。明日は、朝イチで、課長と吉井さんのお小言聞くことから、仕事だからな」

 あたしは、ただ笑った。

 そして、高遠先輩は出て行った。

 誰もいない病室は、いやに静かだった。


”孔明師範に毎晩犯されてるお前を見て、次は俺が犯すと思っていた”


”孔明師範にもこんな風に抱かれてたんだろ?毎晩見てて飽きなかったよ”


”欄の好きな刑事さんをボコったこと?それとも俺が欄を背後から襲ったこと?”


 遼の言葉が、頭から離れなかった。

 涙が出て止まらなかった。

 あたしの知ってる遼が、全て偽りだったのだ。

 あたしを助ける振りをして、全然違うことを考えていたなんて。


”俺の師範は、後にも先にも孔明師範だけだよ”


 あたしの前で、笑いながら答えてた。

 一時でも、遼のことを好きだと思っていた感情があったことが、滑稽に思えた。

 遼は、当時、孔明師範の手前、あたしに手を出さなかったけど、あたしが遼に気があることに気付いていただろうから、ほくそ笑んでいたに違いない。

 ふと、視線を感じて、横を見た。

 大山先輩が立っていた。

 あたしの顔が強ばった。

 顔さえ見れなかった。

「また、肩傷めたんだって?」

 大山先輩が、話し掛けてきた。

「・・・・・・」

 悪いとはわかっていたが、返事が出来なかった。

「仕事失敗したのか?クヨクヨすんなよ。また、頑張ればいいたろ?!」

「・・・何がわかるんですか?」

「ん?」

「・・・あなたに、今のあたしの何がわかるんですか!記憶も戻ってないくせに!」

 大山先輩に対して、”あなたに”だ、完全な、八つ当たりだった。

 イライラして、どうしようもなかった。

 酷いことを言っているのも、充分に分かった上で、大山先輩に暴言をはいた。

「そうだな。俺、まだ記憶戻ってないんだよな。欄以外の記憶があるから、間違いそうになるな。欄にしてみれば嫌だよな」

 大山先輩は、一呼吸おいて。

「欄、ちょっとでいいから、記憶取り戻す手伝いしてくれないか?」

「記憶を取り戻す手伝い?」

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