紫陽花
「わぁ。見事な紫陽花だ。どうしたのさ、」
 僕は軽く息をつき、花瓶を机の真中に置いた。
「二人で見ようと思ってね。」
「綺麗だね。」
 僕は読みかけの本を棚に戻し、蘇芳の向いに腰を下ろした。
「ねぇ、鉱。紫陽花が色を変えるのは、土壌のせいだろう。だから好きな色で切ればいいんだ。そうすれば色は変わらない。」
 蘇芳は真っ直ぐに僕を見つめる。
「何が言いたいのさ、」
「別に、」
「・・・どんな色でも、紫陽花に変わりはないさ。」
 僕の言葉に、彼はゆっくりと微笑んだ。
「そろそろチャイムが鳴るね。次の授業は出るの、」
「蘇芳はどうする、」
「授業は嫌だな。やっぱり帰るよ。」
「じゃぁ、家まで送ろう。教室に寄ってくれないか、鞄をとらなきゃ。」
「うん。いいよ。」
 彼は言いながら、鞄の中をゴソゴソと探る。
「あれ、」
「何を探してるのさ、」
「ドロップ。確か薄荷のドロップがあったと思うんだけど・・・」
「それなら、鞄の前のポケットだ。」
「・・・ああ。本当だ。」
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