君だけに夢をもう一度
「迷惑だなんて思っていないさ」
正和は自分の心とは、逆なことを答えた。

正和は、昔の恋人と再会して嬉しいという気持ちはなかった。

敦子とつき合っていた頃の正和は、自信にあふれていた。
いつもプロのミュージシャンになることを熱く話していた。

実際のところ、学生時代はアマチャバンドのコンクールで優勝したこともあり、CDデビューを目指した時期もあった。

しかし、正和にとっては、その頃が人生の中で一番に輝いた時期だった。
結局大学卒業後、就職もせずにプロを目指したが叶わなかった。

プロのミュージシャンの夢を捨てた時、輝きのない、ただの男になってしまった。

そんな姿を見せたくなくて、敦子から離れたことを思い出していた。


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