残酷なラブソング
「掲示板・・見た?」
君島さんは、控えめに言った。
「あ、もしかして休講だった?」
「うん。」
眉尻を下げて微笑んだ君島さんを見て
急いだ疲れも、取り越し苦労も、
全て吹っ飛んだ気がした。
「君島さんは、どうしてここに?」
「前回のレポートの提出期限
私だけ今日なの。」
君島さんは照れたように笑って
さらさらの長いストレートの髪を触った。
前回もらったレポートの提出期限は
月末だったはず。
そうすると、ずいぶん早い。
「月末に予定あるの?」
「岩手の方の大学院の研究室に
研究生として呼ばれてて、ね。」
嬉しそうに君島さんは
肩をすくめて笑った。
頬をピンクに染めて。
君島さんは、笑うと頬にうっすらと
えくぼが出来る。
「へぇ〜っすごい!」
「もう自分でもびっくりしてるの。」
褒められると
〝そんなことないよ〟
って言うのが会話の定番。
でも、
本当は自分でも思ってるくせに
って反感を買いやすい。
君島さんのように
素直に喜びながらも、
自分を下げる言い方が出来る人って
滅多にいないんじゃないだろうか。
すごいな、君島さん。
君島さんは外に向かって歩き出した。
私も、後を付いていく。
「ずっとね、美桜ちゃんと
話したいって思ってたの。」
階段を下りるたびに、
君島さんの切り揃えられた前髪が
ふわりと浮かぶ。
「嬉しい!私も!」
それから2人は大学に併設された
カフェテラスで、
たくさんの話をした。
過去のこと
家族のこと
大学のこと
教授の笑い話
それから話は恋愛へと移った。
「え!?」
落ち着いた音楽の流れる
静かなカフェ。
君島さんは慌てて自分の口を覆った。
綺麗な二重の目は
信じられない、とでも言うように
大きく開かれたまま。