悪魔のいる教室
最近悪魔は、休み時間の度に教室に帰ってくるようになった。

授業の合間の短い時間から、お昼休みまで。


授業をサボって、休み時間に帰ってきて、また授業が始まる前にどこかへ消えた事だってある。


何がしたいのかさっぱりわかんないけど、それでも、数学の時間だけはちゃんと隣にいてくれる。

悪魔からしたらただ単に自分のためなんだろうけど、私にとって数学の時間は……特別。

説明してくれる時にだけ聞ける低く優しい声が、好きだった。


悪魔が来てから暫く経ってチャイムが鳴り、いつものように数学のおっさんが鼻歌を歌いながら教室に入ってきた。

優等生な私は前もって机に準備していた数学の教科書を開き、ペラペラ捲り──……

──……ふと手を止めた。


問題の隣に並んだ暗号。
右上がりの、細長い文字。


以前、悪魔が書き記したそれを暫く眺め、ページの端にそっと折り目をつける。


……何してんだろ。


自分の行動に呆れながらも、折り目は元に戻さなかった。





──……この頃は何も知らなかった。


ただ毎日が楽しくて、小さな幸せが嬉しくて。

ちっとも気づけなかった。


私の存在が、悪魔を苦しめていたなんて──……。
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