悪魔のいる教室
『キモイ』とか言われたらどうしよう。

ビビリな私はそんな事ばっか考えてて。


「……キモ」


悪魔はしっかりとそこを突いてきやがる。


冷たい視線が、冷たい声が、刃物みたいに鋭くなって胸に突き刺さる。


……ヤバイ。
なんかヤバイ。


覚悟してたはずなのに。

グァッと目頭が熱くなって、悪魔の横顔がぼやける。

ってか、視界全体がぼやけてる。


ヤバイ。
ほんとにヤバイ。

ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。


脳内はパニック状態で、それでも私は必死に笑顔をつくって、『いいじゃん』とさも気にしてない風を演じる。

こんくらいで傷ついてるって気づかれたくない。


こういう時必要以上にお喋りになってしまうのが、私の悪い癖だ。

気まずい沈黙が嫌で、深く考えずに喋りまくる。


「名前くらい呼んでくれてもいいじゃん。『お前』とか『てめぇ』とかじゃなくてさぁ。私の名前覚えてる? あん時教えたやつ。ほら、体育の前に階段のとこでさ。そういやあん時やっぱり足捻ってたみたいでさ、めちゃくちゃ痛くて──」

「おい」


たった一言。

たった一言だけで、私の口の動きは制された。


悪魔が見てないのをいい事に、喋りながらさりげなく目を拭ってた私は、ゆっくりと顔をあげる。


「お前」


小さくすごむ声の元に


「殺されてぇのか」


鬱陶しそうに顔をしかめた悪魔がいた。
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